バトルバディ・ア・ラ・カルト
 


     




明日にも催される慰霊祭とやらは、大昔の落盤事故へのそれであり。
彼らの身内が亡くなった方の直近の事故は、
少なくはない被害者が出たのだろうに、
驚くべきことには身内以外へは公表さえされてはないという。
そもそも構造上の不備を確認してはなかった手落ち、
つまりは“人災”だったのに、
そんな事実ごとまるっと闇へと葬られ、不慮の事故とされたらしく。
というのも、
レアメタル目当てで始まった採掘だったものが、
だがだが、実はそんな鉱脈なんて結果として見つからず。
そもそも採掘自体が、対外企業への刺激にならぬよう極秘に運ばれてもいたとかで、
ならば秘密裏に隠せるなという解釈をした
我が身だけが可愛い、非常識な首長づきがいたが故のとんでもない処断が下され、
そのまま今に至るのだそうで。

「……。」

こたびの脅迫犯のうち、もう一人の異能者の持つ力というのが、
これまた厄介な、自身や触れたものを見えなくする能力。
見えないといっても物体がそこから存在を無くするのではなく、
表面に当たる光の反射角を変えることで視えなくする能力であり、
掴みかかれなくなるわけではない。
そうは言われてもそう簡単に確保出来はしないだけの級のそれだからこそ、
軍警関係も手を焼いているわけで。
視えないだけじゃあない、熱量も抑えることが出来るようで、
赤外線系のセンサーにも反応しない手ごわさだとか。
自在に時間を止められる異能と差のないレベルで難物だと皆が頭を抱える中、
それへは中也があっけらかんとした答えを出した。

 『粉でも塗料でもぶっかければ輪郭が浮きだすんじゃねぇか?』

 その前に、まずはどこにいるかが判らないのに、どうやって。
 だから、絨毯爆撃で。
 …せめてローラー作戦と言ってほしい。

『重力磁場のハエ取り紙より安易なことを言い出すとは…。』
『まま、基本的にはそれが一番有効ではあるのだがね。』

要は、居るだろう空間全部へ何かしらの塗料をぶちまけて、
それをくっつけてることを目印にすればいいと。
いつぞや、三社鼎立の折に彼らが福沢社長へ用いた追跡用放射性塗料でもいい、
その初手が難しいというのなら、
そこを通らねば引き渡し場所へ来られぬような位置取りで、
食品工場や精密機器工場で用いられているエアルームのような区域を作り、
細かい霧のように噴霧して唯一そこを通過した手合いを追えばいいのだと。
結構柔軟な、創造性たっぷりの案をひねり出した重力遣いさんではあって。
ただ、そうなると事前の準備が必要だし、
廃工場にいかにも真新しい区域が現れては警戒されること請け合いなので。
そこでと、足跡が残りやすい感圧式の床材やら、
心理学を応用した つい選択してしまうルートの構築やら、
やれるだけのトラップを構えて待ち受けたのに。
何となれば、中原幹部の異能の重力操作で現場となった廃工場内の重力を思いきり加圧し、
10分も維持すれば意識を失った誰かさんが姿を現し転がり出るだろうなんて
結構乱暴なことまで企んでいたらしく。
(それってハエ取り紙作戦のまんまやないか〜い。発案者は誰?)
それはあんまりだとしても、
金塊が奪われたら仕掛けるつもりだった、外延ぐるりへの隈ない放射性追尾物質の散布にて
逃げ出しても待機していた面々に追ってもらえると踏んでいた。
時間を止めるという翼で一足飛びに跳躍できる存在と違い、
こちらの彼はあくまでも地続きな地平を駆けてゆく身なのだから、
それで追跡可能な鈴付きの首輪を掛けられようと、
それは厳重な手を講じていたんだのにね。

 だって、相手の目的は要求した金塊なぞではなく、
 それは小さな、とあるマイクロ・フラッシュメモリだと判っていたから

だったらこっちは身軽な、されどその特異な異能を使う上で時間制限がありそうな
時間跳躍者くんが担当するはずと、
時間稼ぎをしたいのだろう金塊奪取の方へは、インビジブルくんが向かうだろうと踏んでいたのに。
追えなくもないと思わせることで追跡陣営の鼻面を引きずり回せるじゃないかと読んで、
そこでという準備を整えて待っていた廃工場には、タイムジャンパーの方が現れたそうで。

『まさか、こっちの読みを更に読んで逆を張って来ようとは。』

時を止める異能者でもそうそう長い距離を一気に移動は出来まいから、
敦の感覚鋭い目と鼻で見えた範囲での相手の動線を把握し、
少しずつ移動するその発現地点を把握しつないで、
やはり乱歩と連絡を取り合い、延長点を予測して。
芥川の羅生門でそれをどこまでも追従し取り囲むという策を練ってあったのに。
何の準備もない中、
時間操作に比すればどこまでもステルスなままでいられる異能を持つ相手との
難しい鬼ごっこを繰り広げることとなった、
こちら 十代チームの白と黒の二人は、
相手が目的としている“大棺の間”にのっけから待機していたのだが。

 「…あ。」

鈍い地響きが聞こえ、敦が装着しているインカムから、外で待機している谷崎からの通信が入る。

【何か通過したよ。
 トラップに引っ掛かってくれて、そのままそちらら向かった。】

そんな報告にかぶさって、何やら重々しい土砂崩れの音がして。
ちょっと乱暴な手筈だが見えない相手だし、何しろ急な事態、
多少は突貫の対応となっても仕方がないと、

『迷っていても埒は明かぬ。』

唯一の出入り口である坑道口に、
通過したことだけを伝える原始的なトラップを山ほど仕掛け、
それへの反応と共に発動する、
ポートマフィアの狂科学者・梶井謹製の爆弾で、
それは潔くも岩盤部分を盛大に崩して塞いだ。
同じところからの脱出は不可能だと相手にも思い知らせ、逃げ道を限る効果はあろうし、
そうともなれば、姿が見えない相手でも何とか追いすがる足掛かりくらいは作れよう。

「……。」

今はまだ黒獣を起こしちゃあいない芥川は、
岩肌そのままの壁へ凭れてうっそりと静かに待機の姿勢を保っており。
外部との連携をつなぐインカムを預かる敦は、
オープントーク用の小型スピーカをサスペンダーの肩近くへ留めると、
周囲の気配を見回している。
視野をまさぐるだけでなく、匂いや気配へも意識を冴えさせておれば、

「…待てっ。」

彼らが待機しているのは、
かつての落盤事故にて没した人々の名が記された追悼用の名簿を納めていた
岩の棺を据えた石室のようなところであり。
装飾的な明かりだろう、床に据えられた幾つものライトが灯されたそこへと
飛び込んで来た微かな気配があったのへ、
芥川が身を起こし、敦もその気配の動きを追うように視線を動かす。
じっとされている方が難儀であるため、
やって来た侵入者の第一の目的、フラッシュメモリを奪わせるところまでは
遺憾ながらも許すことにしており。
ただし、此処からは儘にさせるつもりはなくて。

「キミもまた、内閣府の官僚方へ脅迫状を送った一味の人だというのは判っているよ。」

姿はないが、自分が通過した直後に派手に爆破された入り口や、
本来警備の必要なぞなかろうこんな何もない石室に人がいた事実へ、
身動きを凍らせて立ち尽くす誰かがいるのは判る。
金塊奪取というのが実はおとりだ、こちらこそが本命という真の狙い、
もしかして気づかれているやもとの恐れを抱いていてもおかしくはなく。
そこからの警戒を働かせていようから、ここまでは彼らが早急に組み上げた計画に沿った流れ。
これが狙いらしいと確認しておいた、何のひねりもない素っ気ない形のフラッシュメモリが、
手品のように すっと浮いて掻き消えたのも目撃していて、

「此処へ入ってきた入り口は、僕らの仲間が塞いだ。
 だから、残る脱出口は一つだけだ。
 キミも下調べはしていよう、点検用の連絡用通路だけ。」

うんともすんとも返事がないので、
聞こえているのか、そこにとどまっててくれているのか、ちょっと不安になりもしたが、
やや後背の位置にいる芥川が動き出さないので、
いまだ駆け出してはないのだろうと見越して敦は言葉を続ける。
 
「こんな岩窟の奥向きにある連絡口だけに、作りは頑丈。
 地震や何やでちょっとやそっとの重みがかかっても歪まないように、
 扉も枠も錠前の部分も、それは丈夫で、歪まないよう作られてて。
 なので、無理無体をしてキーシステムを壊しでもしたら、
 重機を持ち込んで大掛かりにあたらねば もはや開けられなくなるっていうのは判るよね?」

そこまでを告げてから、自分の着ているシャツの襟元をまさぐると、
随分とストラップ部分が短く、ほぼ首に巻いているよな状態のリードに提げられたカードケースを摘まみ出し、

「これがカードキーだ。
 これでなけりゃあ開けられないし、
 一枚しかないから外の人たちを脅してもすかしても開けられない。」

「…っ。」

え?と息を飲んだのは、そこに居るやら居ないやらな侵入者だけではなく、
ここまでは敦の側に立ち、ようよう聞けよ不埒な脅迫者めという態度でいたのだろ、
勇猛果敢な漆黒の覇者殿もで。

「…そのような仕儀は聞いてはいないぞ。」
「うん、言ってなかったよね。」

だって言ったらいい顔しなかったでしょと、
驚かれ、少なからず非難されようことまで織り込み済みだったという
揺るがぬ態度で虎の少年は言ってのけ、

「この人みたいなタイプだと、近接型のボクでは役に立てない。
 だから君が一人で対応するつもりだったんだろけどそうはいかないよ?」

味方なはずの青年へ、なのに儘にはさせぬぞと、
訊きようによってはとんでもないこと言い出す彼で。

「こんな装備をしていてそう簡単には掠め取れないから、
 よほど強行にボクを足止めしないと奪えはしない。
 そんな標的を狙う動きを読むことで、位置が判りやすくなるって寸法で…」

「どれほどの愚者か、貴様っ。」

皆まで言わさず、つかつかと足早に進み出た芥川が、
敦の薄い肩を掴み、強引に振り向かせる。

「そのような危険を誰が貴様へ許した。」
「見えない相手でも弾幕みたいに羅生門を繰り出せば、
 どこかへ当たって居場所くらい知れるとか思ってるんでしょ。」

中也が口にした策の応用だろうが、だったらと敦が思いついたのも似たようなもので、

「でも、キミのその異能って、
 途轍もない破壊力なのと引き換えに、そりゃあ多くの気力や体力を使うそうじゃないか。」

戦闘中は何とか張り詰めていて集中も利いての立っていられるが、
鳬がつくと同時、時にはばったりと倒れてしまうこともあるらしいと
これは中也からこそりと聞いており。
そんな彼が全てを負うなんて、自分は何も手出しが出来ないなんてどうして納得出来ようか。
なので、少しでも助けになるようにと、

「ボクっていう的へ目がけて飛び掛からねばならなくなった。そこを狙えば、」
「それが愚策だと言っているのが判らぬかっ。」

何故わざわざ危険極まりない的になる必要があると、
味方なのに胸倉掴み上げての噛みつくような叱りようも相変わらずで。

「だからっ。
 羅生門の濫用ってやり方では体力があっという間に尽きてしまうんだろう?
 鼻の利くボクもいるのだから、探査しつつ様子見しいしい進めばいいだろに。」

太宰さんもそうと忠告してただろうにと、そうと言っている端から、

「…っ!」

石棺の傍から大きく動いたらしい気配が拾えた。
姿にまでの影響は出ない程度で、だが、耳や鼻の感度を上げていた敦であり、
一足飛びでは逃げられない身の相手もまた、必死で当たっているが故、
逃げ隠ればかりでは脱出できぬと判ったらしく。
ならばと腹をくくったか、
大胆にも出会い頭という急な出現をし、至近からマシンガンで撃ってくる凶悪さ。

「あ…。」

ただ逃げることだけを念頭に置いてただけじゃあない、
邪魔立てするものは薙ぎ払ってでも、何なら殺してでも想いは果たすという
破綻した覚悟があったらしいことを思い知ったと同時、
そんな虎の子をくるんだのが黒獣の楯。
耳を弄すほどの掃射音が洞窟状な空間を塗りつぶしたが、
そこは素人、かなりの反動があっただろう威力に
長く撃ち続けることが適わぬようで。
ほんの深呼吸2回分くらいを盲打ちしただけで銃声は止み、
その直前に、しっかと抱える格好で弟分を庇うと後方へと飛びすさって逃れている黒と白の青年と少年へ、
ちいと判りやすい舌打ちをしつつ、
マシンガンを何か…やはり異能を使った布のようなものでくるんで消した。
どうやら向こうもこちらの敷いた策を理解し、乗って来たらしいと確認出来たところで、

「離れるな…」
「何で庇うのかなっ。」

忠告を寄越しかけた兄人の声を遮って、
両手掛かりで相手の胸板を突き、その身から離れた敦がなお大きな声を張る。

「それじゃあ何にもならないだろう? 君まで一緒くたに狙われる。」

どうしてそうも、何でも一人で手掛けようとするかな、と。
随分と怒っているような顔つきで睨み返してくる虎の子は、
以前に真っ向から対決し合った折のように、斬りつけるような憤怒の激情を染ませた声を放っており。

「それともそんなにボクはあてにならないか?」

戦闘への慣れは確かにないがと、そこは認めていながらも、
頼りに出来ず庇う手間のいるお荷物なのかと、そうと訊きたいらしい琥珀の瞳へ、

「それは違う。」

こちらも心外だと言い返す。
ちらと気配への反応を示し、羅生門の矢を牽制に放っては、
隙を見ては躍りかかって来る、見えぬ相手の機銃掃射から逃れつつ、

「力尽きても貴様が居よう。そうと思えば、後顧の憂いなく全力で当たれる。」
「そんな破滅型の考え方に乗っかれるはずないだろうっ」

揃って無事に帰らなきゃ成功じゃあない、何でそれが判らないんだと
やはり抱えられて逃れた先で、その腕を手荒に振り払ってそうと声を浴びせれば、

「…っ。」
「わっ。」

やや遠くからのマシンガンの掃射が鳴り響き、
防御にと巡らせてあった羅生門もその切っ先が一旦蹴散らされ。
接近してはない場所からの銃撃元を見やれば、すっかりと姿を現している青年がいる。
自分たちとそう変わらない年頃の、だが、少々窶れた感の強いご面相の20代半ばくらいの青年で

「体のいい使い捨ての異能者が、偉そうなことを言うのだね。」

会話が聞こえていたものか、そしてそれが綺麗ごと過ぎて腹に据えかねたか、
パーカータイプの上着、そのフードで顔を隠していた青年が追っ手の二人へ向き直って声を張る。

「どうせ君らも権力者から依頼されてこんなことをしている使われものだろう?
 要領よくかかればいいじゃないか。
 そっちの彼が踏み石になってやろうというのなら、そのまま乗っかればいい。
 結果さえ出せばいいんだ、どうせそれでしか評価しない奴らなんだ、
 関わった者の顔も名前もどうでもいいのだ彼奴らは。
 忘れはしないと、ご丁寧に慰霊祭など催すが、それは自分たちの功績へのパフォーマンス。
 誰がどんな思いで、絶望を抱いて死んでいったかなんて知らない、残された家族の怨嗟も届かない。」

きれいごとがそのまま通用するよな世の中じゃあないと苦々しく口にし、
顔の真横へ掲げた手の先、ぱちんと指を鳴らすとその姿はあっさりと掻き消える。
二人の口論でイライラが募ってでもいたものか、
吐き出すように口を突っ込んできた彼は、

 “正義の味方でも気取っているものか。”

腹の奥がぐつぐつと熱いの、吐き気と共に抱えつつ、
異能で消したが自分には見えるマシンガンを再び構えると、
さっきから正道ばかりを口にする少年へ狙いを付ける。
きっとまた庇われて、それを忌々しげに突き放すに違いない。
そこを今度こそ逃さず狙ってやろう、
お前のような甘ちゃんが生き延びられるよな世界じゃないのだ本来はと弾丸をねじ込んでやる。
死にはせずとも転げまわるような大怪我を負わせて、そうすればもう一人の場慣れした男も動揺しようしと
スコープを覗いて狙いを定め、
そのあとに銀髪の少年が飛び出すだろう角度へ銃口を振る予行までしてから引き金へ指を掛ける。
手も腕も慣れない武器の激しい振動にしびれてとうに麻痺し、感覚も危ういが、
今宵のこの仕儀さえ完遂すれば思い残すことはない。

「…っ。」

幾度目かの銃撃がやや離れていた敦の身へと降りかかり、
またしても黒衣の青年が手を伸ばす。
忌々しげに顔を歪めた少年だったが、相手の手を突き放そうと振りほどきかけたその抵抗が、

 途中で逆再生され、その身ごと相手の懐へ飛び込む方向へと動いており

邪魔にならないようにとぎゅうと身を縮めてしがみついたその頭と肩越し、
真っ直ぐ伸ばされた芥川の視線が、見えない相手がすぐさま放った虚空への掃射を見据え、
それが放たれている箇所への黒獣の一斉攻撃を放っており。

 「な……っ!」

空中を滑降してゆく漆黒の異能は、今度こそ狙い違わず獲物へと躍りかかっての締め上げて、
赤みがかった帯電の余波が合わさって、バチバチバチ…と躍り上がるよな放電を起こす。
メモリはまんまと奪われているが、整備のための連絡通路しか脱出経路はなし。
そちらへは今しも太宰や中原が駆けつけつつあり、
こちらの周縁に詰めている谷崎や賢治へ対策への周知を伝えられつつある。
彼らによる今度こその放射性追尾物質の散布という検問に遭えばそれで、
洗ったくらいでは落ちぬ物質による執拗な追跡がかかることとなり、
此処からは出られても逃げのびることは不可能という顛末となるはずで。

『他へ脱出口を穿つというなら別だが、
 かつて崩れた部分以外の岩盤は途轍もなく強固だからそれも無理だろう。』

舞台となる場所という意味からの地盤への見解は刷り合わせ出来たものの、
そこからの攻防への打ち合わせははっきり言って暇がなく。
そして恐らくは、最初に敦が断言したこと、
羅生門でのしらみつぶしを構えていよう芥川だというのへも疑いようがなくて。
中也さんと似て来ての結果だろうか、こういうところ。
相変わらずの独断専行、もしかせずとも、傍に居る敦は戦力に入ってないという腹なのか。
自分は近接でしか異能を発揮できない身、
なので、広域のしかも攻守両方が可能な彼には
後衛として大局を見回してほしいと…太宰さんも言ってたのにィと、
煩悶するだけでは芸がない。

 「…まったく。」

防御に専念していたところからの一転して、
見事に相手を縛り上げられた黒獣なのを確認し、はあと深々とした吐息をついた黒衣の彼で。
打ち合わせなしに いきなりのご乱心…としか思えぬ言動を見せた敦だったのへ、
正直なところ胸がしくりと傷みかけてもいたくらい。
なのでか、きゅうとしがみついたままの少年なのへ、
照れるより含羞むより、こちらからも腕を回してなおのこと囲い込み。
白いお顔をやや斜めに逸らしつつも、頬は銀の髪へと擦り付けて、
先程からのしゃにむな跳ね除けは嘘だよねと問いたいような態度を取れば、

 「…良かったぁ。」

その懐ろの深みから、くぐもったような声がして、

「最後の最後、やっぱりボクが振り切って離れようとするってキミまで早合点して、
 この位置から先へ飛び出してたらどうしよかって思った。」

はあと安堵する声が、よほどに緊張していた反動か
弛緩しきっていてのそれは甘くて蕩けそうなそれであり。
低められた底のほうへネコの甘えの唸りみたいなゴロゴロという響きまで練り込まれており。
一応の監視、こちらのやり取りも収録し続けていた
外部班の谷崎さんやナオミちゃんがあらまあと微笑ましげな顔になり、
のちに検証のため全部聞いた帽子の似合う誰か様は、
こんな声音は聞いたことがなかったか、やや複雑そうな顔になったとかどうとか…。


  to be continued.(17.06.02.〜)





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 *な、長い。
  なのに雑というから、どんだけ芸がないのかを思い知りました。
  後始末をもうちょっと書きますのでお待ちを…。